前向性健忘と逆行性健忘の対応とリハビリテーション

はじめに

ijmaki / Pixabay

健忘とは、記憶障害のひとつです。
記憶障害の中でも、ある程度限定的な記憶の障害を指します。
その中でも、前向性健忘と逆行性健忘に大きく分けられます。

原因となる脳損傷が起こる前と起こった後に分けられ、起こった後の記憶を失うことを前向性健忘、起こる前の記憶を失うことを逆行性健忘と言います。
たいていのケースで両方に何らかの問題が起こりますが、便宜上そのように分類され、それぞれ対応の仕方やリハビリの方法なども変わってきます。

前向性健忘の特徴

前向性健忘とは、何らかのかたちで脳に損傷が起こった後に起こったことにおける記憶の障害です。重度になると、数分前に起こったことを忘れている、新しいことをなかなか覚えられないなどといった問題が起こってきます。しかし、昔の記憶(学生時代の友人との思い出など)や、習慣的なこと(近所のお店がある場所など)、かつて自身が体験したことによって学ばれたこと(掛け算の九九や地理的なことなど)などはある程度保たれていることが多いです。

軽度でも、部分的には覚えているけれど、いくつかのことを同時に覚えようとすると何かが抜けてしまったり、全く新しいことを覚えようとするとそれは難しかったりというようなことが起こることがあります。

リハビリの対象となるのは殆どがこの前向性健忘の場合です。

前向性健忘の対応方法

前向性健忘とは、これから覚えることを覚えにくい状況です。新たに記憶をするためには、①新しい情報を自分の中に取り込む記銘、②情報を自分の中で蓄積する保持、③その時々に応じた適切な記憶を取り出す想起の能力が必要になります。

記銘・保持・想起のそれぞれの段階で注意するポイントが変わってきますので、注意してください。

記銘段階における対応方法

自分の中にその情報を取り込むことを記銘と言います。正しくその情報を取り込むためには、様々な認知機能を使っていかなければなりません。

注意力

情報を取り込むためには、その情報に対して注意を払わなければ適切に取り込むことが出来ません。人の話を聞いていても、ボーッとしながらと集中しながら聞くのとでは、話を理解して記憶するのに大きな差が出ます。

まずは覚えるべき事柄を正しく取り込むためには、注意がそれるような環境因子は取り除くことが大切です。心を落ち着かせ、余計な刺激が入ってこないよう、集中できるような状況を作りましょう。

理解力

正しい情報を適切に取り込むためには、そのものをきちんと理解する必要があります。どういう内容だったのかということが理解できていなければ、正しく覚えられる能力には結びついていきません。
理解するのに難しいような内容であれば難易度を下げたところからスタートしたり、理解が出来ているかをその場で確認することが大切です。

もしも、理解が出来ているのに忘れているようでしたら、それは記銘の問題というよりも保持や想起の問題になりますので、まずはメモを取ったりして記録に残すことを意識して行ってみてください。

容量

覚える情報量が多いと、なかなか記憶に結びつきません。脳損傷により、この記憶の容量が低下することはよくありますが、一度にたくさんのことを覚えるのはなかなか難しくなります。

まずは少しずつ、情報を細かく分類して覚えていくことで効率的に記憶を取り入れることが出来ます。

認知能力の活用

記憶をするためには、言葉や視覚的な認知機能を意識して活用するのが良いでしょう。
言語機能が保たれているのであれば、何かを覚えるために言葉に置き換える、メモを取るといった方法を取ると覚えやすいです。

視覚認知機能が保たれているのであれば、図や写真、絵などに物事を置き換えてみたりすると比較的覚えやすいことがあります。脳損傷が起こった部位によって、そのような他の認知機能がどれくらい活用できるかも変わってきますので、医師やリハビリのセラピストなどと相談しながら、どのようなことならば覚えるための手がかりとして活用できるかを知っておくことが大切です。

保持段階における対応方法

記憶をするためには、取り入れた情報を保持していく必要があります。
情報は、脳の様々な部位に分類され保持されますが、その際に残しておくべき情報と残さなくてもいい情報がある程度分類されます。例えば、旅行へ行った時に初めて通る道は、今後行くことがなければこの段階でいらない情報となりますし、何度か訪れることになるような場所ならば残しておくべき情報となります。私達が日常当たり前のようにしている様々な情報を保持していく時には、以下のようなことを行いながら情報を保持していくことになります。

反復

何度も同じことを繰り返し行うことを指します。最もよく行われる方法です。

語呂合わせ

歴史の年号を覚えたり、元素記号を覚える時に色々な語呂合わせで覚えたりしたことがあると思いますが、他の関係のない言葉やリズムに合わせて情報を取り込んでいくことを指します。

関連付け

他の知識や情報に照らし合わせ、それらを関連付けて情報を取り込んでいくことを指します。例えば、友だちの誕生日はバレンタインデーなどと関連付けたりして覚えることです。

仕分け

多くの情報をまとめるのに、様々な分類に仕分けて整理して覚えていくことを指します。ただ文字を羅列するよりも、箇条書きにして情報を整理していくほうが覚えやすいのと同じです。

視覚的なものの利用

言葉ではなかなか覚えられないことも、図やグラフ、チャートなどの視覚的な情報からならばイメージとして覚えやすいということもあります。

私たちは日常生活の中で、特に意識しなくてもこのような手段を使って物事をより覚えやすくしています。他にも様々な記憶するための方法を駆使していると思いますが、覚えにくいこともこうして少しでも多くの情報を取り込もうとしています。こういったことを符号化といい、いつも無意識下で行われています。

間違った情報を保持してしまった場合は、できるだけその情報には触れないようにしたり、取り合わないようにすることで、想起させないようにします。脳の記憶のキャパには限度があるため、その情報の使用量が少ないと徐々に忘れるように出来ています。正しい情報を保持させるように、上記のような様々な方法を駆使して、脳内の情報整理していきましょう。

想起段階における対応方法

想起とは、脳内に蓄積された様々な情報を、適切なタイミングで正しい情報を引き出すことです。
これが出来て初めて記憶をアウトプットすることが出来ます。記銘や保持が正しく出来ていることが前提ですが、それを使うためには想起が出来なければ意味がありません。記銘や保持が正しく出来ていても、なかなかそれを表現できないという人は、また様々な方法を駆使していく必要があります。

連想

ひとつの事柄から他のことをつなぎ合わせながら思い出す方法です。「明日は会議がある。会議に使うための資料を持っていかなければならない。だからその資料を仕上げなければならない。」というように、○○がある→○○には何が必要だ→○○のためにこれをしなければならないというような連想をして、やるべきことを思い出すような方法です。

資料を作成するのを忘れているような時には、周囲が「明日は会議があるよね?」というように思い出せるようなきっかけをつくることがあります。

記憶に問題がある人も同じです。何かきっかけを作ってあげることで、大切なことを連想できるような足がかりを作ってあげてください。

50音検索

そのものは分かるけれど、名前が思い出せないという時に、あいうえおから順番に辿っていくと思い出せることがあります。なかなか単語が思い出せない時によく利用する方法です。

逆算

行動を系統立てて自分のやってきたことを辿っていくことを指します。財布を落とした時に、自分の行動を振り返ったりしますが、こういった行為が逆算です。

脳損傷による記憶障害の時には、ものをどこかに忘れてきたり、どこにしまったかわからなくなるということがよくありますが、逆算をして記憶を辿っていくことで思い出せることがあります。丁寧にゆっくり行動を辿ってみてください。

記憶ツール

連想や50音検索、逆算は自身の内部的な処理によるものですが、それだけではどうにもならない時には外的なツールを利用するようにします。例えば、メモやノート、日記などで、必要事項を事細かに記していくことで想起しやすくします。携帯のアラームなどを活用するのもいいでしょう。

前向性健忘に対しては、記録と参照が大切になります。まずは日記やメモ、手帳などに起こった出来事はなるべく書き留めておくことが第一歩です。視覚的なツールとしては写真や絵などで残すことも有用性が高いです。
もし忘れてしまったとしても、そういった痕跡が残っていれば自分の行動への自信にもつながります。こうした外的な記録ツールによる積み重ねにより、徐々に頭の中でも情報を積み重ねていくことが出来るようになることがあるので、根気よく対応しましょう。

また、そういった記録をきちんと適切に参照出来ることも大切です。正しいタイミングで正しい情報を取り出すことが出来て初めてその情報が活用できます。自身の想起だけでは不安な時は、記録を参照し、情報が正確かどうかを確認しましょう。

逆行性健忘の特徴

逆行性健忘とは、脳に損傷が起こる以前に持っていた記憶の障害です。ドラマなどで事故の後に目が覚めたら以前の記憶をすべて忘れてしまっているというような状況になることがありますが、この状況が逆行性健忘です。

逆行性健忘も程度があり、数時間から数日の記憶が抜けてしまう場合もあれば、過去の記憶が部分部分で抜けてしまうようなこともあります。通常は、前向性健忘も伴う場合が多いですが、逆行性健忘だけを呈することもあります。過去の自分のことを全て忘れてしまうような状況のことを、全生活史健忘ともいいます。

逆行性健忘の対応方法

逆行性健忘は、脳損傷以前の記憶の障害です。
当時の写真や日記、人や場所を訪ねたりと、記憶のきっかけになれるような何かに触れ合う機会を増やしていくのが一番ではあります。
ある時突然思い出したりすることもあるので、根気よくやっていきましょう。

まとめ

脳損傷によって起こる記憶障害のひとつである前向性健忘と逆行性健忘。
リハビリとしては、前向性健忘が対象となることがほとんどですが、記憶をする過程のどういった機能に問題があるかで対応の仕方が変わってきます。

適切な評価の元、その対応方法を学び、周囲の人や本人が意識していかなければなりません。
頭部外傷などにより起こったこのような健忘に関しては、突然改善したりすることもありますので、冷静に対処していくようにしてください。

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