失語症とは?
失語症は、脳卒中や、頭の怪我の後遺症の一種で、言葉を思い出せなくなったり、うまく話せなくなってしまう障害のことをいいます。
失語症はどうして起きるのか?
人間の脳は、様々な役割を持つ部分に分かれています。
例えば、足を動かす命令を出す部分、何かに触ったときに触ったと感じる部分、目に見えたものが何だとわかるための部分などです。
その中に言葉を話したり、理解したりする働きを担当している部分があります。
失語症は、その言葉の働きを受け持つ部分のどこかが損傷を受けたために起こります。
失語症の症状について
失語症の患者さんと日頃接していると、上手に話せないということが目立ちます。
しかし、私たちの言葉というものは、話すということのほかに、人の話を聞いて理解する、文字を読んで意味を理解する、文字を書くといった様々な側面を持っています。
失語症の患者さんは、単に発音ができなくなってしまったわけではなく、もっと大もとの言葉の仕組みそのものが障害を受けています。
そのため、程度の差はありますが、話す、聞く、読む、書くの全ての面に渡って、困難が生じていることが多いのです。
失語症の言葉の症状や障害の程度は患者さんによってそれぞれ違います。
ここでは、言葉のいろいろな側面にどのような症状がみられるのかいくつかの例を説明していきます。
話すことについて
失語症になると、言いたいことが頭の中に浮かんでいるのに言葉がが浮かんでこなかったり、変な言葉になってしまったり、違う言葉を言ってしまったりします。
例えばお腹が痛いのに、どこか具合が悪いの?と聞かれても、あーえーと、あのー、あれと言葉が浮かんできません。
また、帽子と言いたいのにもかかわらず、「あのー、ぼ、ぼーひじゃない、あのー、ぼうふじゃない」と変な言葉になってしまうことがあります。
また、リンゴと言いたいのにもかかわらず誤ってみかんと言ってしまうこともあります。
聞いて理解することについて
言葉の音は聞こえているのに、言葉としての意味がわからなくなってしまったり、言葉としてうまく聞き取れないことがあります。耳が遠くなったわけではありません。例えて言うなら、私たちが知らない外国語を聞いている時の状態に似ています。
文字を書くことについて
話せないなら書いてみたらどうだろう?と思われるかもしれません。しかし、言いたいことを言葉にするのが難しいわけですから、言葉を書くことも同じように難しいことが多いのです。また、言葉は浮かんでもその言葉を表す文字を思い浮かべるのにが難しい場合もあります。しかし、患者さんによっては漢字だとかけることがあります。仮名文字を書くのは一般的に難しいようです。
文字を読んで理解することについて
文字を見ても、その意味がわからなくなります。漢字よりも仮名文字の方が簡単なような気がしますが、失語症の患者さんの場合は、漢字の方が意味が理解ことが多いようです。
失語症の方への接し方
失語症の方への接し方の基本を記載しましたので、参考にして頂けたらと思います。
ゆっくり話しかけましょう
できるだけゆっくり違和感がない程度に話しかけてください。
また、耳が遠くなってしまったわけではありませんから、必要以上に大きな声で話しかける必要ありません。
状況からカンを働かせてみる
失語症の方が、言いたい言葉が思い出せなかったり、変な言葉になってしまったときには、状況からカンを働かせて聞き直してみます。ただし立て続けには効かないように注意してください。
はいーいいえでの質問
はいーいいえで答えられるように短い言葉で話しかけてみてください。
また、「何が飲みたい?」と問うよりも「飲みたいのは、コーヒー?お茶?」と選択肢があるほうが答えやすくなります。
また、文字や絵などを選択肢を指さしてもらう方がより確実なことがあります。
※うまく言えないなら、仮名の五十音表を文字盤をさしたら?とお考えになるかもしれません。しかし、失語症の患者さんの多くは仮名文字を音に変えたり、仮名文字を組み合わせて言葉にすることが難しいのです。そのため五十音表は役に立たないことが多く、かえってできないことで気持ちの負担になることがありますのでご注意ください。
文字提示やジェスチャー、実物を見せる
文字を見せたり身振りで示したり、実物を指差したりして尋ねると理解促進にやくだちます。
文字は漢字の単語で単語で書いたほうが分かりやすくなります。
数字などは指で示すとわかりやすくなります。
説明と同時に、書いて示すのも良い方法です。漢字を使って簡潔に書きましょう。
文字を指さしながら繰り返して確認するとさらに良いでしょう。
身振り手振りを加えて伝えるのも良いです。
歌を楽しめる方は多い
失語症の患者さんは話すことが難しくても歌うことは楽しめる方もいらっしゃいます。このほかにも、いろいろな趣味を持たれることは気晴らしになります。
失語症をしていただくために
お気持ちの問題
人が自分の気持ちをうまく言葉にできないということは、想像以上に辛く、ストレスの溜まることです。患者さんは、上手く話せないことで落ち込んだり、興奮して大きな声を出したりすることがあるかもしれません。「どうしてこんなことも言えないの」「ほら○○って言ってごらん」、「○○はこうでしょ」と言うような言葉かけは控え、今の状態を受け止め、見守って差し上げてください。
失語症で頭おかしくなってしまったのか?
言葉がうまく話せない、聞き取れない、駆けない、読めないからといって、患者さんは頭がおかしくなってしまったわけではありません。
失語症そのものは言葉の障害ですから、周りの様子を見て状況汲み取るなど、言葉を使わない能力は病気の前と変わらないことが多いのです。
ですので、子供扱いをしたような言い方は、患者さんの自尊心を傷つけてしまうことになります。
あくまでも病気になる前の患者さんを思い浮かべて尊重して差し上げていください。
失語症以外の言葉の障害「麻痺性構音障害」について
脳血管障害によって起こる言葉の後遺症には、失語症の他に麻痺性構音障害と呼ばれるものがあります。
失語症と一番違う点は、失語症は言葉そのものの障害であるのに対して、麻痺性構音障害は主に、発音の障害であるという点です。
ですから、失語症の患者さんの場合と違って、言えなければ書いて、また五十音表をさしてといった方法が、多くの麻痺性構音障害の患者さんにとって有効なコミュニケーション手段として役立ちます。
困った場合は言語聴覚士に相談してみましょう。
人間のコミュニケーションの方法は言葉で話すということ1つには限りません。
失語症の患者さんと接するときには、言葉の症状や障害の程度に応じて相手の人が柔軟にコミュニケーションの方法をいろいろと工夫する必要があります。
言語聴覚士が行う言語療法では、言葉そのものの練習だけではなく、患者さんと周囲の人とのコミュニケーションができるだけうまくいくようにお手伝いをしていきます。
失語症の言葉の症状や障害の程度は、患者さんによって違います。
何か言葉について困ったことがあれば担当の言語聴覚士などにお尋ねするといいかもしれません。