脳性まひの原因は何か。

ビクトリア朝時代(19世紀)には脳性まひの原因について2つの大きな学説があった。

1つは、偉大な精神分析学者であるSigmundFreudが精神医学に取りかかる以前に、部分的に提言したものである。

彼は、子どもの出生以前にその脳が発達していく途上で、脳組織に破壊が起こったと考えた。

ビクトリア朝時代のもう1人の偉大な人物で、整形外科医であるWilliarnLittleは、損傷は出生時、分娩の過程で起こったと考えた。

この後者の考え方、つまり、分娩中の酸素不足が脳性まひの主因であるとする考えは、最近の20~30年ではおそらく最も支持されている。

そして、嘆き悲しむ多くの親(とりわけアメリカで)が産科医を分娩管理ミスで訴える根拠ともなっている。

現在では、赤ちゃんはかつて考えられていたよりも分娩時の酸素不足にずっとよく耐えられると考えられている。

そして、分娩時に実際に損傷を受ける場合があることは確かだが、たぶん、それは以前に考えられていたよりもはるかに少ないのである。

脳性まひの赤ちゃんのおよそ40~50%が未熟児である。

そのように小さな赤ちゃんは、生まれた後で損傷を受ける危険性が確かにある。

これほどの早期には、脳室のまわりの血管は通常より血管壁がもろく、脳室内への少量の出血は比較的起こりやすいのである。

あまり広範囲でない小さな出血は重大ではないが、時として脳室の壁を押し上げ周辺組織を壊すような大規模な出血が生じると、機能に重大な障害を引き起こすことがある。

興味深いことに、このような事態が起こる領域は、運動に関する情報を送るとされている領域でもある。

脳室内出血の最も重大なタイプでは、90%もの赤ちゃんが脳性まひを発症するというのだから、小さな新生児を監視することは非常に重要である。

超音波スキャンを使用すれば、私たちは脳室で起こっていることを観察できるし、とるに足りない小さな出血でも相当な量の大きな出血でも同じように発見できる。

組織に広がった損傷も見ることができる。

脳室内への出血は脳性まひの重大な原因には違いないのだが、これ以前に脳の発達に悪影響を及ぼしうる原因がほかにもある。

赤ちゃんの胎児期に関して印象深い事実の1つに、「何と多くの発達がそんなにも急速に起こるのだろう」ということがある。

その結果、妊娠12週か13週までには、非常に小さいにもかかわらず胎児はヒトの特徴をすべて備えていて、小さな人間のようにみえる。

上肢、下肢、心臓などをすべて備えてはいるが、この時期の脳はまだかなり単純な球である。

それが妊娠の中期から末期にかけて驚くほど発達し、そして生まれた後も実に大きく発達し続ける。

細胞は脳の中で分裂するだけでなく、動きまわり、神経線維束ができている。

当然のこととして、これほど小さな脳の中で起こりうるこれらの精巧な動きは、妨害されうる場面が生じてく。

それらの原因のいくつかは知られており、たとえば、アルコール、コカイン、風疹などへの感染が脳を損傷する場合がある。

このほかにもまだ私たちの知らない脳破壊物質がかなりたくさん存在することは間違いない。

生まれた後で脳損傷が起こることもある。

片まひでは、損傷の原因とまではいかなくてもそのメカニズムがわかることはしばしばある。

なぜなら、片まひで起こることは成人の脳卒中で起こることに似ているからである。

損傷はある特定の血管が栄養している領域に起こっていて、出血(つまりその血管全体が壊れている)か、または血栓といって、血管がふさがった状態になっている。

生後に発生した片まひのなかには、まれではあるが発達のときに何らかの理由で脳内血管が完全にできあがっておらず、その血管壁が弱いために起こったのではないかと思われるものもある。

現在では、新しい検査技術(後述参照)を利用することによって、脳のどの領域が侵されているかを見ることができるし、その画像から、損傷の時期について的確な見当がつくこともある。

しかし、原因を知るためには必ずしも役には立たない。

個々の症例では、「脳のこの部分が少しばかり損傷を受けていますが、理由はわかりません」と説明するしかないことがよくあるのである。

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