糖尿病に対する運動療法の方法

糖尿病に対する運動療法の方法

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糖尿病の運動療法は食後1-2時間に行うことが良いとされており、低血糖リスクの回避、食後高血糖の是正効果を目的としている。運動時間は20-60分の有酸素運動が推奨され頻度は週3-5回といわれています。この頻度に関しては糖代謝改善効果が約12-72時間継続すると言われているためです。

有酸素運動の運動強度は様々な指標を用いて決定されます。一般的には中等度運動と表記されていますが酸素摂取量、心拍数、自覚的運動強度 (Borg 指数)などで決定されます。

具体的には、最大酸素摂取量60%、 個人の安静時の心拍数から最大心拍数に至るまでの 60%程、自覚的に「ややきつい」と感じる程度が中等度運動とされることが多くみられます。

個人の最大心拍数に関しては段階的運動負荷試験で決定されるべきですが、簡便な算出方法としては220-年齢で推定することができます。

しかし糖尿病性神経障害を合併している場合、高齢者では心拍数を指標に運動強度を決定することは正確性に欠け、危険な場合もあるため注意が必要となります。

レジスタンス運動について

レジスタンス運動では、筋肉量や筋力を増加させるとともにインスリン抵抗性を改善し血糖コントロールを改善する効果が認められています。

運動回数・頻度については週2-3日、主要な筋肉群を含んだ 8〜10 種類のレジスタンス運動を 10〜15 回繰り返すことが推奨されています。

有酸素運動単独、レジスタンス運動単独、有酸素運動・レジスタンス運動の併用例でにてHbA1c 低下を検証した結果、併用例にて最もHbA1c の低下が認めれました。

レジスタンス運動は有酸素運動に劣らない有効性が認められており、有酸素運動の持続が困難な場合の選択肢として検討が必要です。

しかし、高強度のレジスタンス運動は、虚血性心疾患などの合併症患者では不適切であり実施に関しては注意も必要となります。

運動療法の進め方は個々の状態によって検討する必要があり、進め方も個別に検討する必要があります。積極的な運動療法だけでなく身体活動量の増加を促すケースもみとめられそれぞれの嗜好にあった運動を取り入れる必要があります。

また運動の継続のためには歩数計の利用が有効であり実生活の中での動機つけとなることが多くみられます。

運動療法の効果について

2型糖尿病患者への運動療法

2型糖尿病患者の心肺機能低下は心血管イベントに関連があるといわれており注意が必要となります。

運動療法としては、最大酸素摂取量の50~75%の運動を1回約50分、週に3~4回、計20週間行った場合には最大酸素摂取量は優位な増加を認めたとの報告があります。

2型糖尿病患者のインスリン抵抗性や肥満、高血圧、脂質代謝異常は血糖コントロールに大きな影響を与えます。

8 週間以上の運動療法を行った研究では有意な体重減少は認められない状態においても、HbA1c は有意に改善(約−0.6%)したという報告があります。

またHbA1c と心肺機能の改善には、高い強度の運動が有効であったとの報告があります。糖尿病の診断から早期の患者においては、運動療法のみを行った場合、食事療法の改善効果を下回る結果となりました。

糖尿病治療の第一選択は食事と運動となっている、どちらか一方のみではなく二つの治療を両立することが重要となります。

1型糖尿病患者への運動療法

運動強度は中等度以下が推奨されています。 運動により血糖値の低下は認められていますが長期的な血糖コントロールに関する効果は不明な点が多くみられます。

しかし、糖尿病患者に多くみられる合併症の予防効果は認められており、血糖コントロール以外の生活の質を高める効果があると考えられます。

合併症のある糖尿病患者への運動療法

糖尿病性網膜症については、未治療状態の増殖網膜症を合併している場合には、高強度の有酸素運動やレジスタンス運動は避ける必要があります。

運動により収縮期血圧の上昇がみとめられ更なる網膜の出血を誘発する可能性があるために注意が必要です。

または頭位を下げる運動、強い振動刺激を伴う運動でも出血の原因となる場合も認められています。

糖尿病腎症については進行した腎機能障害の患者を除いては、有酸素運動を主体とした中等度までの運動が推奨されます。

しかし高強度の運動を行うことによって腎臓への阻血を引き起こす可能性があります。

対応方法としてはインターバルトレーニングを行い腎血流量の維持を図りつつ細切れ運動の実施が推奨されています。

足病変についてはフットケアが重要となるので自己管理について指導が必要となります。

また近年は上肢用のエルゴメーターも販売されており。レジスタンス運動と併用することによって下肢への過重を防ぎつつ一定の運動効果を上げる方法もみられます。

自律神経障害を有する患者では運動中に血圧低下や上昇を起こしやすく、リスク管理の徹底が必要となります。

また自律神経症状が出現している症例は運動中に突然死や無症候性心筋梗塞などの合併症を起こす可能性が高く、予後不良となるケースが多くみられます。

運動と血糖値

運動を行うことで血糖値は低下します。 これは血液中のブドウ糖が骨格筋に取り込まれて利用されるためです。

しかしインスリン低下とグルカゴン上昇が生じている場合には糖産生が増加し血糖値が変化しない状態になります。

2型糖尿病患者の場合にはインスリン低下のために肝臓での糖産生不良に加え骨格筋での糖利用増加によって運動中の血糖値は低下します。 この作用はインスリンやスルホニル尿素薬を服用している患者では過剰に働き低血糖リスクが高くなります。 また運動終了後においてもグリコーゲン合成やインスリン感受性の亢進によって血糖値は低下します。

そのために長時間効果のある糖尿病薬を使用するは運動後も低血糖を起こす可能性があります。 対応方法としてはインスリンの種類に合わせ投与量の調整を行っていく必要があります。 投与量の調整に関しては運動強度や運動時間によって異なるが1/2-2/3に減量することが一般的と言われています。

インスリン欠乏状態で高強度の運動を行った場合には肝臓での糖産生の増加は認められますが糖利用が障害されるために運動中又は運動後に血糖値は上昇し、ケトアシドーシスを生じる可能性があります。

1型糖尿病患者でケトーシスを起こしやすい患者は運動に際してインスリン量の減量はさけ捕食で調整することが望ましいと言われています。

インスリン投与量の調整は非常に難しく、患者自身の経験に基づいて調整する必要があります。 そのために運動前・中・後の自己血糖測定を行い、運動による血糖値変化を把握し食物摂取や運動療法の変更を行い患者自身が対応しなければなりせん。

※この記事は、理学療法士(認定理学療法士(代謝)、糖尿病療養指導士)に依頼し執筆していただきました。

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