
子育ては、喜びと共に悩みがつきものです。中でも「食」に関する悩みは、多くの親御さんが日々直面する課題ではないでしょうか。「せっかく作ったのに全然食べてくれない」「好き嫌いが激しくて栄養バランスが心配」「食事中に歩き回ってしまって、ゆっくり食事ができない」…。毎日の食卓で、ため息をつきたくなる瞬間もあるかもしれません。
特に、発達障害のあるお子さんをお持ちの場合、その特性が、食事の場面での困りごととして現れることが少なくありません。例えば、特定の味覚や嗅覚、食感に対する感覚過敏、いつもと同じ手順や食べ物でないと受け付けない強いこだわり、あるいは集中を持続させることが難しい、じっとしているのが苦手といった特性が、好き嫌いや偏食、食事中の落ち着きのなさといった行動に繋がることがあります。
しかし、これらの行動は、決して「わがまま」や「しつけが足りない」からではありません。お子さんなりの理由や背景があることを理解することが、解決への第一歩となります。
この記事では、発達障害のあるお子さんの食事に関する悩みとどう向き合い、親子で少しでも穏やかで楽しい食事の時間を作り出すための具体的なヒントやアプローチを、より詳しくご紹介していきます。
根幹は「食事=楽しい時間」というポジティブな経験
栄養バランスやマナーももちろん大切ですが、何よりもまず優先したいのは、お子さんにとって「食事の時間は楽しいものだ」というポジティブな経験を積み重ねることです。食事が苦痛な時間になってしまうと、食べる意欲そのものが失われかねません。
- 「できた!」をキャッチして、自信を育む: どんなに小さなことでも、「できた!」瞬間を見逃さずに具体的に褒めることが、お子さんの自己肯定感を育みます。「ピーマン、一口食べられたね!すごい!」「苦手な〇〇、頑張って挑戦したね。ママ(パパ)すごく嬉しいよ!」のように、具体的に何がどう嬉しかったのかを伝えると、お子さんは自分の行動が認められたと感じ、次への意欲に繋がります。食わず嫌いだったものが一口でも口にできたら、それは大きな進歩です。結果だけでなく、挑戦しようとしたそのプロセス自体も認め、褒めてあげましょう。
- 食卓を笑顔にする「楽しい会話」を: 食事中は、お子さんの好きなキャラクターの話、幼稚園や学校であった面白い出来事、週末の予定など、明るく楽しい話題を選びましょう。クイズを出し合ったり、しりとりをしたりするのも良いかもしれません。親御さん自身が笑顔で食事を楽しむ姿を見せることも、お子さんにとっては「食事は楽しいもの」と感じる大切な要素です。
- 「頑張り」への共感と承認: 食べたくないものを目の前にして、葛藤しながらも頑張ろうとしているお子さんの気持ちに寄り添いましょう。「これ、苦手だもんね。でも、ちょっとだけ頑張ってみる?」「一口だけでも挑戦してみようか」のように、気持ちを理解していることを伝え、スモールステップでの挑戦を促します。無理強いはせず、「今日は難しかったかな。また今度挑戦してみようね」と、できなくても責めない姿勢が大切です。
- 親自身のイライラとの向き合い方: 毎日続く食事の悩み。親御さんだってイライラしてしまうのは当然です。そんな時は、一度深呼吸をしたり、少し席を外したりしてクールダウンするのも有効です。「完璧にしなくていい」「全部食べなくても大丈夫」と、ご自身にも許可を出してあげてください。
発達障害の特性を理解する:なぜ「食べられない」「じっとしていられない」のか?
お子さんの行動の背景にある発達障害の特性を理解することは、適切なサポートを見つける上で非常に重要です。
- 感覚過敏と偏食: 特定の食べ物を極端に嫌がる背景には、感覚過敏が隠れていることがあります。
- 味覚・嗅覚: 特定の苦味や酸味、香辛料の匂いなどが耐えられない。
- 触覚(食感): どろどろ、ぱさぱさ、ぶつぶつといった特定の食感が口の中で不快に感じる。
- 視覚: 特定の色や形の食べ物を受け付けない。 これらの感覚は、本人の意思ではコントロールしにくいため、「わがまま」と決めつけず、苦手な感覚を避ける工夫が必要です。
- こだわりと偏食・食事の進め方: いつもと同じ食器、同じ席、同じメニュー、食べる順番など、特定の手順や環境に強いこだわりを持つお子さんもいます。変化に対する不安が強く、いつもと違う状況を受け入れるのが難しいのです。無理に変えようとせず、まずはそのこだわりを尊重し、少しずつ変化に慣らしていくアプローチが有効な場合もあります。
- 多動性・衝動性と落ち着きのなさ: 食事中に席を立ってしまう、そわそわして集中できない、といった行動は、多動性・衝動性の特性の表れかもしれません。長時間じっとしていること自体が苦手なのです。この場合、「座っていなさい!」と叱るよりも、短時間で食事が終えられるように量を調整したり、食事の途中で短い休憩(席を立って軽い運動をするなど)を入れたり、座り心地の良い椅子やクッションを用意したりする方が効果的なことがあります。足がぶらぶらしないように足置きを用意するのも良いでしょう。
- 「叱る」よりも「肯定的な伝え方」と「環境調整」: 「〇〇しないで!」という否定的な指示は、お子さんによっては混乱を招いたり、反発心を招いたりすることがあります。「〇〇しようね」という肯定的な言葉で具体的にどうしてほしいかを伝えたり、そもそも問題行動が起きにくいように環境を整えたりする(例:手の届く範囲におもちゃを置かない)方が、スムーズにいくことが多いです。
明日から試せる!具体的な食事サポートの工夫
お子さんの特性に合わせて、様々な工夫を試してみましょう。
- 調理法のマジックで苦手克服!?:
- 隠し味作戦: 苦手な野菜は細かく刻んだり、すりおろしたりして、ハンバーグやミートソース、カレー、お好み焼きなど、お子さんの好きなメニューに混ぜ込んでみましょう。
- 変身作戦: 食感が苦手なら、ミキサーにかけてスムージーやポタージュにしたり、加熱方法を変えて(揚げる、焼くなど)食感を変化させたりしてみましょう。サクサク、カリカリした食感は好まれやすい傾向があります。
- 見た目重視作戦: クッキー型でくり抜いたり、ピックに刺したり、キャラクターの顔を描いたりして、見た目を楽しくアレンジするのも食欲を刺激するきっかけになります。彩りを意識するだけでも効果的です。
- 少量から再挑戦: 一度「嫌い」と認識しても、調理法や体調、気分によって食べられることもあります。少量から、日をあけて何度か食卓に出してみましょう。
- 手づかみ食べのススメ: スプーンやお箸がうまく使えない時期や、手先の不器用さがあるお子さんには、手づかみ食べを積極的に取り入れるのも良い方法です。自分で食べ物を掴んで口に運ぶ経験は、食への興味関心を高め、手指の発達を促すとも言われています。サンドイッチ、おにぎり、野菜スティック、小さく切った果物、鶏のから揚げなど、手づかみしやすいメニューを工夫しましょう。手が汚れることは気にせず、食後にきれいにすればOK、というスタンスで。持ち手が太くて握りやすいスプーンやフォーク、滑り止めがついたお皿など、使いやすい食器を選ぶこともサポートになります。
- 「食」への興味を引き出す関わり方:
- 一緒にクッキング: 野菜を洗う、混ぜる、お皿を運ぶなど、簡単なことから食事の準備を手伝ってもらいましょう。「〇〇ちゃんが洗ってくれたお野菜、おいしいね!」と声をかけることで、自分が関わったものへの愛着が湧き、食べてみようという意欲に繋がることがあります。ステップを踏んで、できることを少しずつ増やしていくと良いでしょう(例:洗う→運ぶ→簡単な盛り付けを手伝う)。
- 自分で選ぶ・準備する: 「今日のおやつはどっちにする?」「自分の食べる分のおにぎりは自分で握ってみる?」など、自分で選択したり、準備したりする機会を作ることで、食事への主体性を育みます。
- 食事のリズムを作る: 起床、食事、就寝の時間をある程度決めることで、生活リズムが整い、空腹を感じやすくなり、食事への意識も高まります。
- 「食べること」に集中できる環境づくり:
- 視覚的な刺激を減らす: テレビは消し、食卓の上や周りにはおもちゃなど食事に関係のないものを置かないようにしましょう。ランチョンマットを敷いて食事スペースを区切るのも効果的です。
- 聴覚的な刺激にも配慮: 大きな音や騒がしい環境が苦手なお子さんもいます。落ち着いた雰囲気で食事ができるよう配慮しましょう。
- 視覚支援の活用: 「ごはん→おかず→お汁」のような食べる順番や、「いただきます」「ごちそうさま」の挨拶などを絵カードにして示すと、見通しが立ち、安心して食事に取り組める場合があります。
- マナーは焦らず、スモールステップで: 挨拶やお箸の持ち方など、身につけてほしいマナーはたくさんありますが、一度に多くのことを求めすぎると、お子さんは混乱し、食事自体が嫌になってしまう可能性があります。「まずは『いただきます』が言えたら花丸!」のように、目標を一つに絞り、できたらたくさん褒める、というように、スモールステップで進めましょう。今はできなくても、成長と共にできるようになることもたくさんあります。焦らず、長い目で見守りましょう。
親御さん自身の心の安定のために
お子さんの食事のことで悩み、疲れてしまうのは、決してあなたが悪いわけではありません。
- 「他の子」ではなく「この子」のペースを見る: 発達のスピードや興味の対象は、一人ひとり違います。周りの子と比べて一喜一憂せず、昨日より少しでもできるようになったこと、その子なりの成長に目を向けましょう。SNSなどの情報に振り回されず、我が子のペースを尊重することが大切です。
- 「完璧な食事」を目指さない: 毎食栄養バランス満点の食事を用意するのは大変です。一日、あるいは数日単位でバランスが取れていればOK、くらいの気持ちでいましょう。時には市販品や冷凍食品に頼ることも、親御さんの負担を減らすためには必要です。一食くらい食べなくても、すぐに健康を害するわけではありません。間食とのバランスを見ながら、柔軟に対応しましょう。
- 一人で抱え込まない: 家族、友人、園や学校の先生、地域の支援センター、かかりつけ医など、相談できる相手を見つけましょう。同じ悩みを持つ親御さんと繋がることも、心の支えになります。専門家のアドバイスが必要だと感じたら、ためらわずに相談してください。
- 休息も大切: 頑張りすぎず、時には休息をとって、ご自身の心と体を大切にしてください。親御さんが笑顔でいることが、お子さんの安心感にも繋がります。
まとめ:焦らず、認め、共に楽しむ食卓へ
発達障害のあるお子さんの食事の悩みは、一朝一夕に解決するものではないかもしれません。しかし、その子の特性を理解し、適切な工夫と温かい言葉がけを続けることで、状況は少しずつ良い方向へ向かうはずです。
大切なのは、「食べさせる」ことよりも「食べることを楽しめる」ようにサポートすること。そして、「量」だけでなく、お子さんの気持ちに寄り添う「言葉がけ」です。
この記事でご紹介したヒントが、日々の食事の悩みに対する一つの道しるべとなり、親子で笑顔あふれる食卓を囲むための一助となれば、これほど嬉しいことはありません。焦らず、お子さんのペースに合わせて、一歩ずつ進んでいきましょう。
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